農業機械学会 第58回年次大会 講演要旨
佐賀大学,平成11年4月


トラクタ・作業機間のデジタルデータ通信(第2報)
− 最適化ターゲットと制御ループ


Digital Data Communication between Tractor and Implements
(Part 2) Control Loops and Optimization Target

ミュンヘン工科大学  R.Freimann
東北農業試験場 ○ 元 林 浩 太

File updated : 1999.12.6

「keyword」精密農法、データ通信、農用バスシステム、CAN、自動制御ループ


図1 最適化ターゲット
1.緒 言 
 既報のように ISO 11783によるネットワークは、複数の異なるシステムにまたがる自動制御ループとして機能することが出来る。その結果、ひとつの作業機やひとつのセンサが、トラクタ及び作業機全体の機能を制御することが可能になる。このことは、例えば作業中の負荷変動やその他の作業情報、ナビゲーション情報等に基づいて、トラクタのエンジン回転数やヒッチポジションをリアルタイムで制御できることを意味する。

2.制御ループ
(1)最適化の目標
 トラクタによる圃場内作業では、作業速度が最も重要かつ基本的な制御ターゲットである。すなわち作業の質、時間、そして経済性の3つ要素の良否は、いずれも作業速度によって大きく支配される(図1)。このため、例えばPTO駆動のロータリティラーでの砕土率や、スプレーヤでの散布プロセス等は、いずれも作業速度を制御することで最適化できる。

(2)最適化制御の戦略
 ISO 11783規格では、トラクタECUのクラス区分としてナビゲーション、クルーズコントロール等のオプションが設定されており、さらに動力系管理の方法として異なる最適化戦略が想定されている(表1)。これらの制御では、トラクタECUがアクセル開度や変速比を自動制御すると同時に、必要に応じてヒッチ位置や作業機ECUに対しても命令を送る。

表1 動力系管理のための最適化戦略    
1.スリップ制御
 最大スリップ率を超えないように、減速したりヒッチを昇降したりする。
2.パワーマネジメント
 (1)出力最大:最大出力が得られるように制御する。
 (2)機関回転数:機関回転数を一定に維持する。
 (3)燃料消費最少:必要な出力要求を満たし、燃料消費が最低になるように制御する。
3.トルク制御
 過負荷防止や作業の最適化のために、機関及びPTOのトルクを一定の設定値に制限または調節する。


(3)制御ループの例
 簡単な速度制御ループの例を図2に示す。制御の目標はベーラーを過負荷から守り、さらに一定のわら流入量を維持することである。この例では、トラクタ前部で検知したわら層の高さ(厚さ)に応じて作業速度を調節する。また、ベーラーが最適な性能を発揮するためにはPTO回転数を一定に維持する必要があるため、機関回転数を一定に保ちながら走行速度を連続的に制御できる無段変速機を装備すれば、より良好な制御が可能となる。いっぽう、大区画水田でのレーザー均平作業(図3)でも、レーザー水準に応じた均平機の高さ制御、運土量超過の回避を目標に同様の制御ループが実現できる。油圧制御による均平機の昇降、負荷変動に応じたスロットル開度や変速比が具体的な制御対象となる。またGPS等による位置情報を含めた精密圃場管理とその作業データの収集にも有効である。


図2 ベーラーにおける速度制御の例
     

図3 レーザー均平における制御の例


3.デジタルデータ通信の将来
 農業機械におけるデジタルデータ通信システムは、将来的には次の3つの選択肢が存在する。最も簡単なものはスタンドアローンの手法であり、メーカーが自社製品にのみに適したシステムを設計することである。 第2は、SAE J1939規格の採用であり、機関や変速装置等の主要コンポーネントの流用が可能になる。第3の方法は、ISO 11783規格との互換性を持つことであり、 作業機やトラクタに付けられた各種のセンサを統合した最適制御が容易に実現可能になる。


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