農業機械学会 第58回年次大会 講演要旨
佐賀大学,平成11年4月


トラクタ・作業機間のデジタルデータ通信(第1報)
− CANバスとISO規格 −


Digital Data Communication between Tractor and Implements
(Part 1) CAN-Bus and ISO standard

東北農業試験場 ○ 元 林 浩 太
ミュンヘン工科大学 R. Freimann

File updated : 1999.12.6


「keyword」トラクタ、作業機、データ通信、LBS、CAN、精密農法

1.緒 言
 近年のトラクタや作業機は電子機器により高性能化し、高度な制御が可能となってきた。しかし、ナビゲーションシステムや散布量可変制御機能、データ収集機能などを活用して精密管理農法を実施していく上では、各機器ごとに制御系統が分散しシステム構成や制御プロセスそのものが複雑になりがちである。このような制御系をリアルタイムで緻密に最適化し、トータルとして最大の作業性能を引き出すためには、標準化された通信規格を基礎とするデジタルデータ通信手法が不可欠である。

2.CANとLBS
 トラクタ・作業機系のデータ通信規格の統一・標準化の必要性はドイツで初めて認められ、農用移動車両のためのデータ通信規格としてLBS(Landwirtschaftliches BUS-System,農用バスシステム)(1)が開発された。これは基本プロトコルにCAN(Controller Area Network)を採用しており、 分散配置された制御機器からセンサーやスイッチに至る様々な機器を1本のシリアルケーブルに接続することができる。このためLBSでは、トラクタと作業機内にCPUを分散配置することができ、異なる作業機や複数の作業機、GPS/DGPSなどの情報機器を使用する場合でも、バスに接続するだけで容易に分散型ネットワークを実現することが出来る。

3.国際規格 ISO 11783
 ISOの農業エレクトロニクス委員会でも、「農用トラクタ及び直装式、半直装式、及び牽引式作業機のデータバスシステムを決定し、さらにセンサ、アクチュエータ、制御機器、データ保持、表示機器等の間のデータ転送の理論と書式を、トラクタ装着、トラクタの一部あるいは搭載機器の区別無く規定する」(2)ことを目的に、ISO 11783規格の策定作業が開始した(表1)。これはLBSを基礎にし、米国のSAE J1939規格とも調和することが視野に置かれている。

表1 ISO 11783規格の構成文書 (注:1998年10月現在)  
Document        Description
Part 1General Standard for Agriculture Mobil Data Communication
Part 2Physical Layer, 250 Kbit/s, Quad Twisted Cable
Part 3Data Link Layer, Harmonized with J1939/21
Part 4Network Layer for Agriculture Mobil Data Communications
Part 5Network Management for Agriculture Mobil Data Communications
Part 6Virtural Terminal
Part 7Implement Messages Application Layer for Agriculture
Part 8Power Train Application Layer; Harmonized with J1939/71
Part 9Tractor ECU Network Interconnection Unit
Part 10Task Controller Application Layer for Agriculture
Data Dictionary for Agriculture Mobil Data communications


 ISO 11783によるネットワークの構造は、 トラクタ内部バスと作業機バスに大別される(図1)。仮想端末(Virtual Terminal)は、トラクタとオペレータが対話する唯一の入出力インターフェイスであり、作業機バスに接続される全ての作業機を監視・操作することが出来る(図2)。
 このネットワークの最大の特徴は、全ての機器が1本のワイヤケーブルで結ばれることにある。すなわち、トラクタは同規格に準じたコネクタ(図3)を車体の前後に1つづつ備え、作業機の装着時にはこの1本のコネクタを接続するのみでよい。異なる作業機や、複数の作業機を同時に装着する場合でも、この規格に準じていれば完全な互換性が保証され、同一のコネクタを差し換えあるいはシリアルに接続するのみで全体の物理的な接続が完成される。
 また、コントローラ、センサ、作業機などが全て1本のケーブルで結ばれるため、トラクタ・作業機系の総合的な制御も容易に実現できる。例えば、作業機側の負荷センサの情報に応じてトラクタの走行速度を加減したり、外部センサの位置情報に応じて資材の散布量を逐次的に制御することも可能である。また、バスに接続されたモバイル・インターフェイスを介して、農家コンピュータとのデータ交換も可能となる。



図1 ISO 11783によるネットワークの例
     

図2 仮想端末のキー配置例



図3 作業機バス用コネクタ


[参考文献]
(1) アウエルンハマー:トラクタと作業機の電子的インターフェイスLBS,農機学会国際シンポジウム「大規模機械化農業に出現したLBS技術とPA」資料(札幌,1997)
(2) ISO 11783:Tractors, machinery for agriculture and forestory, - Serial control and communicationsdata network -, Documents under preparation in ISO/TC23/SC19/WG1

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