平成11年度 農機学会東北支部 研究発表会 講演要旨
岩手農業研究センター,平成11年8月


CANバスによるトラクタ・作業機ネットワーク
− 農用バスシステムの概略と精密圃場管理 −


Tractor-Implements Network using with CAN-Bus System
-Agricultural Bus System (LBS) and Precision Farming-

東北農業試験場 ○ 元林浩太、西脇健太郎

File uploaded : 1999.12.6


「keyword」トラクタ、データ通信、LBS(農用バスシステム)、CAN、精密農法

1.緒 言
 トラクタと作業機の間の通信手法の標準化は、複数の作業機やトラクタを運用してきめ細かな圃場管理を効率的に行うために、近年、特に欧米で盛んにすすめられている。標準化された通信規格を基礎とするデジタルデータ通信手法は、単に圃場内作業の制御プロセスを最適化するのみでなく、作業計画、作業情報や圃場情報の管理なども含めた農家経営システムの一環として捉えられており、精密圃場管理技術を有効に運用していくためにも不可欠なものである。本報では、シリアルバスによるトラクタ・作業機間のデータ通信技術の特徴とその標準化の動向と、さらに精密圃場管理技術の実現に向けた戦略について報告する。

2.農用バスシステム(LBS)
 トラクタ・作業機系内部のデータ通信規格の統一・標準化の必要性は、1986年にドイツで初めて認められ、10数年に及ぶ研究・開発の後、農用移動車両のためのデータ通信規格としてLBS(Landwirtschaftliches BUS-System,農用バスシステム) (1) が開発された。これと平行して、ISOの農業エレクトロニクス委員会(ISO/TC23/SC19)でも、ISO 11783として同様の規格の策定作業が開始され、1999年内の完成を目指して現在も推敲作業が進められている。LBS規格は、トラクタと作業機の間の通信に主眼をおいている。これに対して、 ISO 11783では多くの部分がLBS規格と共通であるが、さらに 米国のSAE J1939規格で規定されたトラクタ内部バス(動力系、油圧機器等)をも包括するものである。

3.CANバス
 LBSを初めとするネットワークは、何れも基本プロトコルにCANを採用している。CAN(Controller Area Network)は、リアルタイム・アプリケーション用のシリアルデータ通信バスである。分散配置された制御機器からセンサーやスイッチに至る様々な機器を1本のラインに接続でき、また構成が簡単でかつ信頼性が高いため、現在では製造、オートメーション、医療機器、さらには玩具に至る広い範囲で使われている。農業機械分野では、CANを利用することで制御用のコントローラをトラクタと作業機内に分散配置することが可能になり、異なる作業機や複数の作業機、GPS/DGPS等の情報機器を使用する場合でも、バスラインに接続するだけで容易に分散型ネットワークを実現出来るなど、高い互換性が保証される。

4.国際規格 ISO 11783
 ISO 11783規格(表1)は 「農用トラクタ及び直装式、半直装式、牽引式作業機のデータバスシステムを決定し、さらにセンサ、アクチュエータ、制御機器、データ保持、表示機器等の間のデータ転送の理論と書式を規定する」 (2) ことを 目的としている。 ISO 11783によるネットワーク構成の例を図1に示す。このネットワークの最大の特徴は、トラクタに付加されるセンサ等の情報機器や作業機のコントローラがすべて1本のケーブルで結ばれることである。このため、ネットワーク上を流れる計測情報や制御情報は、接続されたすべてコントローラで共有することが可能である。作業機の監視・操作は唯一のユーザーインターフェイスである仮想端末(Virtual Terminal)を介して行われる。また、異なる作業機や複数の作業機を同時に使用する場合でも、規格に準じたコネクタを差し替えるのみで完全な互換性が保証される。


図1 ISO 11783によるネットワークの例
表1 ISO 11783規格の構成文書 (注:1999年3月現在)  
Document        Description
Part 1General Standard for Agriculture Mobil Data Communication
Part 2Physical Layer, 250 Kbit/s, Quad Twisted Cable
Part 3Data Link Layer, Harmonized with J1939/21
Part 4Network Layer for Agriculture Mobil Data Communications
Part 5Network Management for Agriculture Mobil Data Communications
Part 6Virtural Terminal
Part 7Implement Messages Application Layer for Agriculture
Part 8Power Train Application Layer; Harmonized with J1939/71
Part 9Tractor ECU Network Interconnection Unit
Part 10Mobile Agriculture Data Element Dictionary


4.精密農法技術への適用
 CANを基礎とするネットワークでは、すべての情報が1本のラインを介して伝達されるため、トラクタ・作業機に渡る包括的な制御ループを容易に構成することが出来る。特に ISO 11783規格では、作業機バスとトラクタ内部バスのゲートウェイにあたるトラクタECUのクラス区分が規定されており、異なる作業機を装着する際の互換性を保証している。CANネットワークによる制御系では、例えば、作業機側の負荷センサの情報に応じてトラクタの走行速度を加減したり、あるいはナビゲーション情報や作物生育情報等の外部センサ情報に応じて資材の散布量を逐次的に制御することも容易である。
 さらにモバイル・インターフェイスを介して農家の管理コンピュータと接続し、センシング情報の蓄積、アプリケーションマップの作成、作業計画支援等を効率的に行うことにより、精密農法を経営戦略として実践していくための極めて有用なツールとなる(図2)。複雑になりがちな制御プロセスをリアルタイムで緻密に最適化し、トータルとして最大の作業性能を引き出すためには、CANを基礎に標準化された通信手法が不可欠である。近年の新たな機械・装置の構成に新たな技術革新をもたらすのは、国際標準化されたデジタル通信技術に他ならない。


図2 ISO 11783の精密圃場管理への適用例


[参考文献]
(1) アウエルンハマー:トラクタと作業機の電子的インターフェイスLBS,農機学会国際シンポジウム「大規模機械化農業に出現したLBS技術とPA」資料(札幌,1997)
(2) ISO 11783:Tractors, machinery for agriculture and forestory, - Serial control and communicationsdata network -, Documents under preparation in ISO/TC23/SC19/WG1

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