第1回若手技術者国際科学会議 講演要旨(和訳)
1st. International Scientific Meeting of Young Engineers
スロバキア,平成10年10月
Slovakia,October 5-7,1998


デジタルデータ通信と将来の農業機械設計への利益

Digital Data Communication and Its Benefits for Future Design of Agricultural Machinery

ミュンヘン工科大学 R. Freimann
東北農業試験場 ○ 元 林 浩 太

File updated : 1999.12.6 (暫定版)

[要旨]
 ISO 11783規格(10章構成)の目的は、 トラクタと作業機の間のデジタルデータ通信バスを統一することである。(ここでは、圃場作業で最も重要な制御対象のひとつである作業速度に関して、2つの例を示した。)将来的には、製造者側はデジタルデータ通信に関して3つの選択肢を持つことになる。最も簡単な選択は、固有のシステムのみに適用できるスタンドアローンの通信システムであり、トラクタの内部制御のためにはこれで充分である。第2の選択は、 SAE J1939規格に準拠することであり、これにより複数の作業機を組み合わせて使用することが可能になる。さらに、異なるメーカーの作業機を複数組み合わせて使用するためには、ISO規格に準じる必要がある。

[キーワード]
 トラクタ、作業機、データ通信、農用バス・システム、CAN、自動制御ループ


1.緒言
 システムのパフォーマンスをより緻密に制御するためには、より多くの電子デバイスを可能な限り最適に使うことが必要である。分散した電子システム間の複雑なプロセスを良好に制御するためには、デジタルデータ通信が有効である。近年の新たな機械・装置の構成に革新的な技術的進歩をもたらすのは、デジタルデータ通信技術に他ならない。

2.ISO 11873規格(1)
 ISO 11783規格は、 ドイツのLBS(Landwirtschaftliches BUS-system、農用バスシステム)(2)と同様に、「農用トラクタ及び直装、半直装、牽引作業機のデータバスシステムを決定し、さらにセンサ、アクチュエータ、制御機器、データ蓄積、表示機器等の間のデータ転送の理論と書式を、トラクタ装着、トラクタ一部、あるいは取り付け機器の別無く規定することを目的にしている。」(1)基本的な物理レイヤーの特性はISO 11898の高速CAN規格に準じている。(CAN=Controller Area Network)このCAN規格に加えて、 相互接続の互換性と電磁障害(EMI=Electoro Magnetic Interference)を低減するために、以下の事項が取り決められている。

   ・通信速度は250kbit/sとする。
   ・通信は物理的には 4対のツイストケーブルを用いる。
   ・作業機接続には、自動ターミネート機能付きの9ピンブレークアウェーコネクタを使う。
   ・EMIを低減するために、末端にはpoweredターミネータを取り付ける。
   ・物理レイヤーは、SAE J1939/11に準拠する。

 SAE J1939規格は、米自動車工業会(Society of Automotive Engineers)のトラック・バス部門の通信規格である。 このSAE J1939規格と互換性を持たせることにより、同一ネットワーク上でこれらのメッセージを利用し、さらにアドレス情報の衝突を避けることが可能になる。

 ISO 11783は現在まだ構築中であるが、現段階(平成10年10月)では表1に示すように10章から成る。第1章から6章では、ネットワーク上でどの様に通信が機能し、仮想端末(Virtual Terminal)上でオペレータに対して情報がどのように表示されるかを述べている。第7章から9章では、ネットワーク上で使われる言語について規定している。この中で、第7章は作業機側の通信(作業機バス)について特化しており、この中にはGPSやDGPS受信器からのナビゲーション情報も含まれている。第8章は、トラクタ内部通信プロトコルに焦点を当てている。ひとつの提案として、トラクタ内部(トラクタバス)では、既存のSAE J1939/71プロトコルのアプリケーション・レイヤーを適用することも考えられる。第9章では、作業機バスとトラクタバスの間の物理的・論理的ゲートウェイとして機能する、トラクタの電子制御ユニット(ECU=Electronic Control Unit)について述べている。第10章では、タスクコントローラのアプリケーション・レイヤーを扱っており、農家コンピュータとのモバイル・インターフェイスについて述べている。

 図1はネットワーク構造の一例で、異なる機能(例えばスプレーヤと播種機など)の後装作業機2台と前装作業機1台を装着した例である。作業機自体の内部ネットワークは、異なるECUを持っても良いし、さらにそれぞれが固有のサブネットワークを有することも可能である。仮想端末、管理コンピュータ・インターフェイス及びタスクコントローラはトラクタ上に設置される。

 作業機バスに与える機能と情報によってトラクタECUをクラス分けすることについては、現段階では複数の異なる提案がなされている。しかし、最も基本となる(最下位の)クラスは、ネットワーク機能を持たないものである。2番目のクラスとしては、ヒッチ位置、PTO回転数、走行時の対地速度など、トラクタ機能の基本的な情報を作業機バスに与えるECUである。より高度なECUは、作業機側にこれら(またはそれ以上)のトラクタ機能の制御を可能にするものである。これらのクラス分けの利点は、農家や作業機製造者の側にある。すなわち、トラクタのECUがどのクラスであるかが分かれば、作業機製造者は与えられる機能を信用することが出来、また農家は同じクラスの作業機との互換性を確証することが出来る。

2.簡単な速度制御ループ
 前述のように ISO 11783によるネットワークは、複数の異なるシステムにまたがる自動制御ループとして機能することが出来る。その結果、ひとつの作業機やひとつのセンサーが、トラクタ及び作業機全体の速度を制御することが可能になる。図2に示すように、農作業に於いて最も重要でかつ基本的な制御項目である。 例えばPTO駆動のロータリティラーによる砕土(fragmentation)やスプレーヤによる散布プロセスの最適化などの作業の質に関わる目標の多くは、“質”、“生産性”及び“経済性”で表現される作業速度を制御することで容易に最適化できる。

 図3(3)に簡単な制御ループの例を示す。制御の目標は、ベーラーを過負荷から守り、さらにベーラーに対して一定の藁流入量を維持することである。この制御ループは、トラクタ前部で藁層の高さ(厚さ)を計測するだけで実施できる。このため、制御プロセスは充分な時間的余裕を持ち、藁層の厚さに応じて作業速度を調節することが出来る。また、ベーラーが最適な性能を発揮するためにはPTO回転数を一定に維持する必要があり、PTOは一般にはエンジン回転数に比例して駆動される。従ってこの制御ループは、トラクタが無段変速装置(CVT)(4)を装備していればより良好な制御が可能となる。

 トラクタ前部に土壌パラメータセンサーを取り付けて、ロータリーティラーの負荷と性能を制御するための制御ループも、同様に構築可能である(図4)。作業機内での制御をより多く行えば、3点リンクの油圧制御トップリンクやヒッチポジションなども、最適化の対象とすることができる。

3.デジタルデータ通信の将来
 将来においてトラクタ、コンバイン、作業機等の全ての製造者は、デジタルデータ通信システムに関する選択肢を3つ持つことになる(表2)。今日の最も一般的な選択肢は、スタンドアローンの手法をとり、自社製品に最も適した通信システムを設計することである。第2の選択肢は、トラックやバスの分野で既に国際的に受け入れられている SAE J1939規格を採用することである。 SAE J1939では、エンジンやギアボックスの様にひとつひとつのコンポーネントを、“プラグ・アンド・プレイ”式のインターフェイスとともに購入(してシステムを構築)することが可能になる。第3の方法は、ISO 11783規格との互換性を持つことである。 これらの3つのコンセプトは、付加的なアナログ式データ転送(非常に高速な転送速度と同期性が求められるが)も含めて、互いに共存することが可能である。表2では、上記3種のコンセプトの差異を9種類の基本的な制御機能に関して比較しているが、その結果 ISO 11783の利点は明らかである。

 トラクタ内部の制御系が ISO 11783/part8に沿って検討されれば、上記の3つの選択肢はどれも可能である。スタンドアローンのデジタルネットワークは、製造者側の要求に応じて最適化が可能である。標準インターフェイスのおかげで SAE J1939は、ネットワークプロトコルの再登録をする必要なしにコンポーネントを交換することが可能な安全性を提供する。トラクタ内部通信の設定には ISO 11783/part7による作業機バスのアプリケーションレイヤーでさえ利用可能である。

[参考文献]
(1)ISO 11783 (Draft): Tractors and machinery for agriculture and forestry, Serial control and communications data network. Part 1-10. Working Documents of ISO TC23/SC19/WG1.
(2)DIN 9684 (1.1998): Landmaschinen und Traktoren - Schnittstellen zur Signalubertragung, Berlin: Beuth Verlag, 1998.
(3)Freimann. R.: Strategien fur Fahrerinformations- und Managementsysteme fur Traktoren der oberen Mittelklasse mit P.I.V. Kettenwandler. Tagungsband, Info-Tag der Arbeits- gemeinschaft Clark-Hurth P.I.V. Reimers, Bad Homburg, 5.7.1994, S 72-84.
(4)Renius, K.Th.: Stufenlose Fahrantriebe fur Traktoren. Landtechnik 50 (1995) H.5, S.254/255

[連絡住所]
1.) Rudiger Freimann(工学士):ミュンヘン工科大学 農業機械講座,Boltzmannstr.15,D-85748 Garching,GERMANY,Fax (++49)89-289 15871
2.) 元林浩太(農学博士):農林水産省東北農業試験場(注),〒020-0123 岩手県盛岡市下厨川字赤平4,FAX 019/641 7794
(注) 平成13年4月以降は、農業技術研究機構畜産草地研究所,〒329-2793 栃木県那須郡西那須野町千本松768,FAX 0287-36-6629


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