2.ISO 11873規格(1)
ISO 11783規格は、 ドイツのLBS(Landwirtschaftliches BUS-system、農用バスシステム)(2)と同様に、「農用トラクタ及び直装、半直装、牽引作業機のデータバスシステムを決定し、さらにセンサ、アクチュエータ、制御機器、データ蓄積、表示機器等の間のデータ転送の理論と書式を、トラクタ装着、トラクタ一部、あるいは取り付け機器の別無く規定することを目的にしている。」(1)基本的な物理レイヤーの特性はISO 11898の高速CAN規格に準じている。(CAN=Controller Area Network)このCAN規格に加えて、 相互接続の互換性と電磁障害(EMI=Electoro Magnetic Interference)を低減するために、以下の事項が取り決められている。
SAE J1939規格は、米自動車工業会(Society of Automotive Engineers)のトラック・バス部門の通信規格である。 このSAE J1939規格と互換性を持たせることにより、同一ネットワーク上でこれらのメッセージを利用し、さらにアドレス情報の衝突を避けることが可能になる。
ISO 11783は現在まだ構築中であるが、現段階(平成10年10月)では表1に示すように10章から成る。第1章から6章では、ネットワーク上でどの様に通信が機能し、仮想端末(Virtual Terminal)上でオペレータに対して情報がどのように表示されるかを述べている。第7章から9章では、ネットワーク上で使われる言語について規定している。この中で、第7章は作業機側の通信(作業機バス)について特化しており、この中にはGPSやDGPS受信器からのナビゲーション情報も含まれている。第8章は、トラクタ内部通信プロトコルに焦点を当てている。ひとつの提案として、トラクタ内部(トラクタバス)では、既存のSAE J1939/71プロトコルのアプリケーション・レイヤーを適用することも考えられる。第9章では、作業機バスとトラクタバスの間の物理的・論理的ゲートウェイとして機能する、トラクタの電子制御ユニット(ECU=Electronic Control Unit)について述べている。第10章では、タスクコントローラのアプリケーション・レイヤーを扱っており、農家コンピュータとのモバイル・インターフェイスについて述べている。
2.簡単な速度制御ループ
前述のように ISO 11783によるネットワークは、複数の異なるシステムにまたがる自動制御ループとして機能することが出来る。その結果、ひとつの作業機やひとつのセンサーが、トラクタ及び作業機全体の速度を制御することが可能になる。図2に示すように、農作業に於いて最も重要でかつ基本的な制御項目である。 例えばPTO駆動のロータリティラーによる砕土(fragmentation)やスプレーヤによる散布プロセスの最適化などの作業の質に関わる目標の多くは、“質”、“生産性”及び“経済性”で表現される作業速度を制御することで容易に最適化できる。
3.デジタルデータ通信の将来
将来においてトラクタ、コンバイン、作業機等の全ての製造者は、デジタルデータ通信システムに関する選択肢を3つ持つことになる(表2)。今日の最も一般的な選択肢は、スタンドアローンの手法をとり、自社製品に最も適した通信システムを設計することである。第2の選択肢は、トラックやバスの分野で既に国際的に受け入れられている SAE J1939規格を採用することである。 SAE J1939では、エンジンやギアボックスの様にひとつひとつのコンポーネントを、“プラグ・アンド・プレイ”式のインターフェイスとともに購入(してシステムを構築)することが可能になる。第3の方法は、ISO 11783規格との互換性を持つことである。 これらの3つのコンセプトは、付加的なアナログ式データ転送(非常に高速な転送速度と同期性が求められるが)も含めて、互いに共存することが可能である。表2では、上記3種のコンセプトの差異を9種類の基本的な制御機能に関して比較しているが、その結果 ISO 11783の利点は明らかである。
トラクタ内部の制御系が ISO 11783/part8に沿って検討されれば、上記の3つの選択肢はどれも可能である。スタンドアローンのデジタルネットワークは、製造者側の要求に応じて最適化が可能である。標準インターフェイスのおかげで SAE J1939は、ネットワークプロトコルの再登録をする必要なしにコンポーネントを交換することが可能な安全性を提供する。トラクタ内部通信の設定には ISO 11783/part7による作業機バスのアプリケーションレイヤーでさえ利用可能である。
[参考文献]
(1)ISO 11783 (Draft): Tractors and machinery for agriculture and forestry, Serial control and communications data network. Part 1-10. Working Documents of ISO TC23/SC19/WG1.
(2)DIN 9684 (1.1998): Landmaschinen und Traktoren - Schnittstellen zur Signalubertragung, Berlin: Beuth Verlag, 1998.
(3)Freimann. R.: Strategien fur Fahrerinformations- und Managementsysteme fur Traktoren der oberen Mittelklasse mit P.I.V. Kettenwandler. Tagungsband, Info-Tag der Arbeits- gemeinschaft Clark-Hurth P.I.V. Reimers, Bad Homburg, 5.7.1994, S 72-84.
(4)Renius, K.Th.: Stufenlose Fahrantriebe fur Traktoren. Landtechnik 50 (1995) H.5, S.254/255