農業機械学会 第59回年次大会 講演要旨
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新潟大学,平成12年4月
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精密農法実現のためのシリアルデータ通信規格
− ISO11783規格による管理情報システム −
Serial Data Communication Standard for Precision Agriculuture
Management Information System according to ISO 11783
農林水産省草地試験場 元林浩太
File uploaded : 2000.6.8 (暫定版)
「keyword」農用バスシステム(LBS)、CAN、ISO規格、精密圃場管理
1.緒 言
トラクタと作業機の間のデータ通信手段の統一・標準化は、近年、欧米で特に盛んに進められている。標準化された通信規格を基礎とするデジタルデータ通信手法は、単に圃場内作業の制御プロセスを最適化するのみでなく、作業情報や圃場・作物情報の管理や作業計画支援なども含めた農家経営システムの一環として捉えられており、精密圃場管理技術を有効に運用していくめにも不可欠なものである。
2.農用バスシステム ISO11783と精密農法
トラクタと作業機のデータ通信規格としては、まずドイツで1997年にLBS規格(DIN9684/2-5)が制定された。さらに、その国際版とも言えるISO11783規格は、トラクタの内部制御系統をも包含するかたちで、現在、推敲が進められているところである。これらはいずれも、基本プロトコルにCAN(Controller Area Network)を採用しており、スイッチ類・各種センサから制御機器、表示装置、データストレージ等の種々の機器を必要に応じて組み込める分散型のオープンネットワークを構成している(図1)。
これらの規格化された農用バスシステムの最大の特徴は、センシング、制御、モニタリング等のあらゆる信号やメッセージが共通の一対のラインを介して伝達されることであり、システムの拡張や、複数のセンシング情報を参照する複雑な制御が容易に実現可能なことである。すなわち、マッピングされた圃場データ、リアルタイムにセンシングする作物情報やGPS等による位置情報を参照する緻密な管理や、刻一刻と変動する作業内容を蓄積・記録することが可能である。このようなことから、標準化された規格によるシリアルデータ通信は精密農法を実現する上で極めて有効なツールであり、農用バスシステムではそれらのデータ交換の方法が規定されている。
図1 ISO 11783によるトラクタ・作業機ネットワークの構成例
3.管理情報システム(MIS)
ISO11783規格第10章で規定される管理情報システム(Management Information System, MIS)は、農家などの基地局などに設置されるコンピュータシステムであり、そのソフトウェアは、地理情報システム(GIS)や圃場管理、作業計画ばかりでなく、労働者や生産物、機械のための資材管理、賃金計算、簿記など、農家の経営全般を含むものである。また、これに対して、ECUやユーザー端末、CANコントローラ等を装備してISO11783ネットワークが機能するトラクタ・作業機系や自走式作業機は、移動作業機制御システム(Mobile Implement Control System, MICS)と呼ばれる(1)。これらの間でのデータ転送は両方向に行われる。すなわち、作業計画は農家やコントラクタ基地局のMISからMICSのタスクコントローラに送られ、作業結果は逆にMICSからMISに送り返される。 ISO11783対応作業機のECUとMISコンピュータの間のインターフェイスを図2に示す。
図2 タスクコントローラの構成
4.タスク管理(Task Management)
タスク管理は、圃場作業の計画・評価をするためのMIS上のツールである。タスクとは、個々の圃場作業において、いつ、誰が、どこで、何を、どの様に行うか、ということである。タスク管理には2つの要素が含まれる。第一の要素は、トラクタや作業機、労働者等の生産資源の管理である。農家は個々の機械の状態や資源の消費を常に考慮に入れながら、これら資源の利用計画を立てたり評価したりすることが出来る。第二の要素は、圃場で実施する農作業の管理である。農作業はひとつひとつの細かいタスクに分割され、計画中の作業や実施済の作業に区分される。
タスク管理では、希望する圃場管理の方法によって、MISからMICSへ転送されるデータが決まる。局所管理を行わない場合は、タスクコントローラに必要なデータファイルを転送し、使う資材を選択するだけでタスクを生成することが出来る。作業後には資材の消費量や作業時間などを収集することが出来る。いっぽう局所管理タスクのためには、可変散布量のデータを準備するのに必要なGISソフトが必要となる。いずれの場合もMISのタスク管理では、ADIS(Agricultural Data Interchange Syntax)フォーマットのインターフェイスファイルが作成される。
インターフェイスファイルが作成された後、車載タスクコントローラの製造元が供給するタスクコントローラドライバが、基地局のコンピュータ上で起動する。このドライバは、チップカード、PCカード、無線等の転送方法及びフォーマットを用いて、MICSの一部であるタスクコントローラへのデータ転送を行う。移動システムに転送されたファイルからISO 11783メッセージへのデータ変換と、移動システム−MIS間のデータ転送仕様は、ISO規格による標準化の対象外である。特定の作業機用の命令を作るためには、このインターフェイスドライバで、作業機メーカ供給のコンフィギュレーション・データを追加して使用すればよい。
[参考文献]
(1) ISO11783 part 10 - Data Exchange with the Management Information System and Task Controlling - , Working Draft of ISO/TC23/SC19/ WG1,1999
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